私は以前から俳優の伊藤沙莉さんの演技が好きだ。メリハリがあって、さっぱりしていて、自然で、ユーモアがあって、筋が一本通った強さがあるところ。役柄なのか本人がそうなのか、またはその両方か。
4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」の主人公「寅子(ともこ)」の役を演じる伊藤さんを毎回楽しく観ている。
昭和初期、「女性」という理由だけで多くの職種において男性と同じ土俵に立つことが許されなかった時代。
法曹界において道を切り開いてきた日本初の女性弁護士、女性裁判所長になった「三淵嘉子」さんをモデルとしたドラマである。
この手のドラマだと「ジェンダー平等を目指す」という昨今の潮流を全面に押し出してドラマ化しちゃったような、一歩間違えばプロパガンダ的になりそうなところを伊藤沙莉さんは自然にさっぱりと演じている。おかげで「一過的なジェンダー平等推進圧力的ドラマ」と感じることもなく力を抜いて観ることができる。
自信過剰、負けず嫌い、一言多いと言われている寅子が、お見合い相手に「結婚相手とは様々な話題を共に語り合いたい」と言われたため持論を展開したとたん「女のくせに生意気な」「分をわきまえたまえ」なんて言われてしまうというシーンがあった。
心当たりあるなあ。こういうの。「妻にするなら女はバカがいい。夫が間違った事を言っても『はい。そうですね』と黙っているような」と面と向かって言われたっけ。誰に言われたかは言わないけどさ、そういうことは結婚前に言わないとね。
男女の区別なく働ける世の中であるべきだし、対等であるべき、って話していた気がしたが、「家庭」においては自分より劣っていると思える相手が良いらしい。私が聞いた話は気のせいだったようだ。
30年前でこれだから、昭和初期なんて、比べ物にならないくらい悔しい目に遭っていただろう。もちろん平成で言われた私だって十分悔しいけどね。
日本人女性として初めて司法科試験に合格した寅子は、祝賀会で
「生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会を私は心から願います」「困っている人を救い続けます。男女関係なく」と強い決意を述べた。
伊藤沙莉さんが最後に力強く「男女関係なく」と啖呵を切ったセリフと演技が気持ち良く、清々しくて、そのセリフを何度もリピートして聞いていた。
昭和の初期から女性はこう言い続け、願い続け、理不尽と戦い続けている。しかし平成になっても男性は「女はバカがいい」と言う。そして令和になった。
寅子が願った社会になっているだろうか。いや、なっていないからジェンダー平等が叫ばれ、こんなドラマが作られているのか。
私の周囲も、メディアも、政治も、国も、一見男女の格差のない社会を目指しているようで、今なお「女なんて」という意識が種火のように根底にあり続けている、と感じるのは、私の思い過ごしではないだろう。
さて、私は今57歳だけど、私が生きている間に、社会は、男性は、どこまで変わるかしら。